30歳になったばかりの頃、
一人暮らしを始めました。
以前から、なんとなくしてみたいなという気持ちは持っていました。
自立して一人暮らしをすること自体、
とても良いことだと思います。
ただこの時、父の認知症は進み、家の中全体が明るさを失っている状態でした。
私は父のことから目を背け、ほぼ毎晩飲み歩き、
帰りが遅くなっていました。
認知症は進んでも、娘を心配する親心は残っています。
父は私が帰るまで眠れないと母に言い、
母は「遅くなるって電話があったから、心配しなくて大丈夫、先に寝よう」
と言っても聞きません。
遅く帰宅した私は心配して待っていた父に詫びることもせず、
「先に寝ててって言ったのに」とうざがるように言っていました。
母はどうにもできない私の気持ちや弱さを分かっていたのだと思います。
一人暮らしをするといった私に母は「そうして」と言いました。
毎晩私を心配する父をもう見たくなかったのでしょう。
ただ、父はとても寂しそうでした。
今思えば、自分のことばかり考えていた私はなんてひどい娘なんだろう、と思います。
ただ、結果としては良かったのだと思います。
あのまま実家にいたら、私がおかしくなっていたかもしれない。
一人の時間を得ることで、切り替えができるようになりました。
行動と矛盾していますが、一人父の面倒を見てくれる母が心配でほぼ毎週実家に帰っていました。
幸いなことに、実家の近くには親戚が住んでおり、
叔母叔父(父母のそれぞれの姉とその旦那さん)が頻繁に来てくれました。
元々免許を持っていない母と父を買い物に連れて行ってくれたり、
話し相手にもなってくれました。
父の言動はもはや小さな子供のようでした。
子供と違うのは、出来ることがだんだん少なくなっていくこと。
それでも親戚の叔父叔母が、父の意味の分からない話を根気よく聞いたり、背中をさすったりしてくれました。
それは心強くもあると同時に父が可哀そうでもありました。
このころ父は週に何回か施設へ行っていました。
迎えの車にすっと乗る時もあれば、拒絶することもありました。
父には可哀そうだけれど、母にも一人になる時間が必要でした。
何より小柄な母が父の世話をすること自体、限界がありました。
そしてついに、母は父を施設に入所させる決断をしました。